ピロリ菌とは
ピロリ菌の正式名称は“ヘリコバクター・ピロリ”と言います。
ヘリコとは「らせん状」という意味で、バクターとはバクテリア(細菌)、ピロリとは胃の出口で十二指腸へとつながる部分(幽門)を意味する「ピロルス」というラテン語の単語から来ています。
ピロリ菌の最も大きな特徴は、酸素の存在する大気中では発育しないことで、酸素にさらされると徐々に死滅していきます。
大きさは約3μm(マイクロメートル)で、4~7本の鞭毛(べんもう)を持ち、この鞭毛を高速で回し、その回転力で胃の中をドリルのように進み、移動します。
ピロリ菌が強酸性下の胃の中で生育できるのは、胃の中にある尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、アンモニアで酸を中和することにより、自身の周囲の酸をやわらげているためです。
胃がんとピロリ菌
ピロリ菌に感染すると、多くは胃粘膜が炎症を起こし、胃の痛みや不快感、吐き気を伴う慢性胃炎や胃粘膜の組織が減少する萎縮性胃炎へと進行していきます。
この萎縮性胃炎は「前がん状態」とも呼ばれ、胃がんの発症リスクが非常に高い病態です。そして日本人の胃がんの99%にピロリ菌が関与していることがわかっています。胃がんの発症を防ぐ意味でも、ピロリ菌の除菌が大いに推奨されます。
胃・十二指腸潰瘍とピロリ菌
ピロリ菌が胃壁に取り付くと、細胞を弱らせてしまう毒素を出し始めます。すると、菌を排除しようとして血液中の白血球やリンパ球が付近に集まります。
両者の戦いが激しくなると、胃の粘膜が炎症を起こして胃炎になったり、胃や十二指腸の粘膜が深くえぐられ、消化性潰瘍を発症すると考えられています。
ピロリ菌の検査
ピロリ菌の検査には、内視鏡検査(胃カメラ)を伴う方法と、内視鏡検査を伴わない方法があり、それぞれ3つずつ、全部で6つの方法があります。
内視鏡検査を伴う方法
内視鏡で胃の粘膜を少し採取し、下記のいずれかの方法で検査します。
- 培養法
- 胃の粘膜を磨り潰し、ピロリ菌の発育環境下で5~7日間培養して判定します。
- 迅速ウレアーゼ法
- ピロリ菌がもつウレアーゼという酵素の働きによってつくられるアンモニアの有無を調査します。胃カメラで生検材料を用いて行います。検査後2時間で判定ができます。
- 組織鏡検法
- 胃粘膜の組織標本に特殊な染色をし、顕微鏡でピロリ菌がいるかどうかを調査します。
内視鏡検査を伴わない方法
内視鏡検査を行わずに、下記のいずれかの方法で検査します。
- 尿素呼気試験
- 吐き出した息を集めて診断する、最も精度の高い方法です。ピロリ菌がもつウレアーゼという酵素の働きによってつくられる二酸化炭素の量を調査します。当クリニックではピロリ菌の除菌療法が成功したかの判定に用いています。
- 抗体測定法
- ピロリ菌に対する抗体が、血液や尿に存在するかどうかを調査します。
- 糞便中抗原測定法
- 糞便中にピロリ菌の抗原があるかどうかを調査します。
※保険適応でピロリ菌の検査が行えるのは、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎、早期胃がんに対する内視鏡的治療後の患者様になります。
ピロリ菌の除菌
ピロリ菌の除菌には、プロトンポンプ阻害薬と抗生物質を7日間服用します。プロトンポンプ阻害薬で胃酸の分泌を抑えておいてから、2種類の抗生物質でピロリ菌を除菌します。
服用終了後から約1ヶ月後以降に、除菌療法の効果を判定します。
この方法による除菌率は、日本では70~90%と報告されています。
最初の除菌療法でうまくいかなかった場合は、違う薬を使って再度、除菌療法を行うことができます。これにより、さらに90%以上の方で除菌が可能と言われています。
この除菌を行えば、感染期間が長きにわたっており、萎縮性胃炎の進んだ人も発がんリスクを3分の1以下に減らすことが可能です。